大阪地方裁判所 平成8年(行ウ)127号 判決
原告
堀内喜代美(X)
右訴訟代理人弁護士
西岡芳樹
同
岡本栄市
被告
帝塚山団地住宅管理組合(Y1)
右代表者理事長
山本続
被告
積水ハウス株式会社(Y2)
右代表者代表取締役
奥井功
被告ら訴訟代理人弁護士
清水尚芳
同
松本岳
同
竹内富康
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 争点1(監査請求期間の遵守)について
1 〔証拠略〕によれば、本件補助金が交付されるに至った経緯は次のとおりであると認められる。
(一) 被告管理組合は、大阪市長に対し、平成六年一一月二四日付で、本件補助金の交付の前提となる本件建替事業にかかる事業計画書(甲二)を提出し、大阪市長は、平成七年一月一二日付で右事業計画を承認した(乙六)。右の計画書及び承認書によれば、本件建替事業は平成六年度から同八年度までの三年度にわたるものであり、補助内容は、前提事実4(一)記載の調査設計計画費、土地整備費、共同施設整備費のいずれにも及ぶものであるが、補助金の額については、各年度の補助事業が完了した後に確定するものとされていた。
なお、被告管理組合は、被告積水ハウス大阪都市開発事業本部部長訴外平林清秀(以下「平林」という。)に対し、本件事業制度にかかる補助金の交付申請及び受領等を委任し、大阪市長に対し、その旨届け出ていた。
(二) 右の承認を受けて、平林は、被告管理組合を代理して、大阪市長に対し、同年一月一八日付で、平成六年度分の補助金である本件補助金(事業計画作成費に対するもの)の交付申請をし、大阪市長は、同年二月二四日付で右申請にかかる本件補助金の交付決定をし、平林を介して被告管理組合にこれを通知した。
(三) 平林は、被告管理組合を代理して、大阪市長に対し、同月二七日付で本件建替事業の事業計画作成にかかる着手届を提出し、同年三月三一日付でその完了実績報告書(甲四)を提出した。
右実績報告書に添付された「等価交換方式による建替え事業の資金計画」と題する書面(甲一〇はその抜粋)によると、本件建替事業の総事業費は二五億二七七九万八〇〇〇円、そのうち補助金の額は四億六二三一万四〇〇〇円(平成六年度分三二七九万五〇〇〇円、同七年度分九七二八万四〇〇〇円、同八年度分三億三二一三万五〇〇〇円)とされていた。
(四) その後、大阪市長は、本件補助金の額を三二七九万四〇〇〇円と確定し、所定の手続を経た上、同年五月一六日、平林を介して被告管理組合に対し、本件補助金を交付した。
2 住民訴訟において、その対象となるのは、地方自治法二四二条一項に列記された財務会計上の行為であるところ、右1の認定事実によれば、本件において財務会計上の行為として考えられるのは、(二)の市長による本件補助金の交付決定と(四)の本件補助金の交付(支出)行為そのものであり、原告も、本件監査請求において本件補助金の交付に関する違法事由のみを主張している。
ところで、地方自治法二四二条二項本文は、住民監査請求は「当該行為のあった日又は終わった日から一年を経過したときは、これをすることができない。」と規定しているところ、右の「当該行為のあった日」というのは、一時的行為のあった日を意味し、「当該行為の終わった日」というのは、継続的行為についてその行為の終わった日を意味すると解される。そうすると、前記1で認定したとおり、本件補助金の交付決定又は交付行為は、いずれも一時的、単一の行為として行われているのであるから、本件監査請求の請求期間は「当該行為のあった日」である平成七年二月二四日(交付決定の日)又は同年五月一六日(交付の日)の翌日から起算すべきことになる。
そうすると、前提事実3記載のとおり、原告が本件監査請求をしたのは平成八年五月二三日であるから、右のいずれの起算日からも一年以上経過していることになるところ、原告は、期間の徒過について正当な理由があることを主張立証しないから、本件監査請求は不適法というべきであり、したがって、本件訴えは、適法な監査請求を経ていないものとして、不適法ということになる。
なお、監査請求が客観的には不適法なものであったのに、監査委員が誤って適法として棄却等の実体判断をした場合でも、これに引き続いて提起された住民訴訟が適法になるということはないから、本件において請求棄却の監査結果が出されていることは、右の結論を左右するものではない。
3 原告は、本件事業制度にかかる補助金の交付が、大阪市長が承認した一個の事業計画について多数回にわたり継続してなされるものであることから、その交付を一連のものとしてとらえ、本件建替事業の事業計画にかかる最終の補助金の交付日をもって監査請求の起算日とすべきであると主張する。
確かに、前提事実4記載の事実及び前記1で認定した事実によると、本件事業制度は、大阪市優良建築物等整備事業の施行者を相手方とし、右事業により市街地の環境の整備改善、良好な市街地住宅の供給等が実現されることから、これを促進するためその費用の一部を補助するものであって、その前提として当該事業にかかる事業計画の承認を必要とするものであり、本件補助金の交付も本件建替事業の承認を前提とするものである。
しかしながら、前記2で説示したとおり、住民訴訟の対象は地方自治法二四二条一項に列記された個々の財務会計上の行為であるところ、同条二項が監査請求について短期の期間を設けた趣旨は、監査請求の対象となる財務会計上の行為が違法・不当なものであったとしても、普通地方公共団体の機関、職員の行為であることから、いつまでも住民が争いうる状態にしておくことは法的安定性を確保する上から好ましくないので、速やかにこれを確定させようとすることにあると解されるのであって、そうすると、右のような一連の行為であって違法事由を共通とする場合であっても、各別の財務会計上の行為と観念される限りは、個々の財務会計上の行為ごとに監査請求期間を判断すべきものと解するのが相当である。
したがって、原告の主張は理由がない。
(裁判長裁判官 鳥越健治 裁判官 戸田彰子 出口尚子)